ももんじ通信

宝くじ当たんないかな

遠くに行きたい

大学生のとき、文学を専門にしていた私はかなり真剣に自分の漂泊の想いに向き合っていたと思う。

フラッと自分のことを誰も知らない土地に訪れて、まとまった期間滞在する。できれば、寒い季節の温泉街がいい。何をするでもなくぶらぶらと日中は歩き回り、飯は食うでもなく食わないでもなく。たまに、縄暖簾で一杯引っ掛けてすごすごと帰っていく。

そんな生活に憧れて、大学2年生の春休みにほぼ家出同然にリゾートバイトを計画したことがあった。

申し込んでいた団体が割り合いときちんとした組織だったため、面接が終わった後に未成年は保護者の許可を取らねばいけないと言われ、私も真面目だったので正直に親に話し結果差し止められたという経験がある。

果たされなかった漂泊の想いは蟠っていて、演劇などの遠征でひとり旅する時は、出来るだけ荷物を少なくしてこざっぱりした宿に泊まりたくなる。

いまだに両親には、リゾートバイトの件に関してからかわれることがあるが、こちとら本気の流浪精神を抱えていたので、こいつらには私の気持ちは分かるまいと思いながら暮らしている。

リゾートバイトの一件について、思い出す時にいつも考えることがある。それは、果たして私が同じ歳の男だったらあの旅を取りやめることになったのだろうか、という疑問である。過保護な家庭だから結局、駄目だったかもしれない。だけど、女のひとり旅よりかはいくらかハードルが下がったのではないかと考えてしまうのだ。

女のひとり旅、と書いて思い出した。観光地に行くリゾートバイトをあえて選んだのは、自身が2時間サスペンスモノのドラマが好きで、素性が分からないが温泉宿に流れてきて住み込みで働いている影のある女に憧れていた為だった。なんと軽薄な理由だろうか。愛すべき動機である。

こんな大学時代の家出願望のことを不意に思い出したのは、私の歳下の従兄弟について思いを馳せる部分があったためである。

私の従兄弟は、建前こそ学生になっているがその実ヒキコモリというものらしい。その事実を私は全く恥ずかしいとも思わないし、むしろ羨ましいと思う。黙々とした性格で、勤勉で、自己顕示欲も高い反面、自主的に何かを積み重ねることが苦手な彼は、運動神経も悪くないし、何かを始めるとそこそこ上手くやっていけて、と色々な才能の片鱗にも恵まれている。考え方や性格に共感する部分があり、私は彼のことが大変好きなので、彼にはどうにか自分の人生を全うしてほしいと考えている。

20代で男性で、働く必要にも追われていない彼のような身分だったら、と考えた時に私はどうしても羨ましさを感じてしまう。ある日突然漂泊の想いに駆られて、どこか遠くへ行こうとすれば、彼はどこにでも行くことができるのだ。ひとり旅をすることで、自殺を疑われることもない。大した荷物を持っていなくても問題も生まれない。そのことがとても私は羨ましい。

さて、そんなこんなをつらつらと書いてきたのだけど、現在は大して抑圧されることもなく好き勝手に暮らしている。結婚し、実家を出たことで監視の目がなくなり、飲み会でテッペンを越えるようなことになっても誰にもとやかく言われなくなった。酒の飲みすぎてヘベレケになり、時間感覚がなくなり朝帰りしたことも、寝過ごして終電で僻地に行ってしまい、漫喫で夜明かしするという経験もした。伝えさえすれば好きなタイミングで好きなように旅行にも行ける。枷が無くなったぶん、好きなように行動もできるので、あんなに強かった漂泊の想いもかなり薄まってきた。

ただ、時々は誰も知らない土地に、家族には何も告げずにフラッと行ってみたくはなるのだけども。

 

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